朝早くに、気配をかんじて目が覚めた。
母が玄関にいて、何やらバッチイ物を触ってる。
「何やってるの?」つい、言葉が出てしまった。
途端に母が不機嫌になる。
「何やってるの?」は禁句だ。
自分の行動を非難したり否定しているように感じられるのだろう。
この頃、この言葉で母は怒りのスイッチが入ってしまうようになった。
最近、ちょっと母が怒るようになった。
「テレビ台の隅で喧嘩してる。」「京都の家の話をしてる。」
もちろん喧嘩してる小さな人などいないし、京都に家などない。
それでも、エスカレートしないよう、なんとなく話を合わせていた。
「ちょっと下におりて、誰かに話を聞いてくる。」と玄関に向かおうとする。
「もう夜だから下には誰もいないから、明日にしようか。一緒に行くから。」そうなだめた。
母のスイッチが入った。
「薄情だ」と私に怒りだし、父には「長いことお世話になりましたが、出ていきます。」
昔から、何かあると出ていく的なことを口にすることはあった。
母も怒りながらも、苦しいだろうと思うと、見ていてつらい。
「ごめんね」と、謝りたい気分になる。
私のひざに顔をうずめて、しばらくして顔をあげると謝るように手を合わせて泣いている。
「大丈夫だよ。心配ないよ。」
心の中でもおなじ言葉を繰り返す。
認知症といっても、今の母は、体調や周りの状況によって症状の表れかたに、かなりの差がある。
その時その時の、目の前の母を大事にしたい。