夕方になると母の様子が変わるが、昨日はちょっと違った。
用事をしていたら、側にやって来て「私を連れて逃げて」と言う。
「どうしたの、何で逃げるのかな?」ゆっくりと聞いてみる。
ゆっくりと聞きながら、自分も心の準備をする。
「あなたを大事に思っているのに、あの人に違うと言われた」
母の頭の中には、時々見知らぬ人が表れる。
母は泣きそうだ。
「大丈夫だよ。逃げなくても平気だよ。逃げる時は一緒だよ」
ひとまず納得しても、次から次へと違うことを言い出す。
「どこにも行かないで」
母が強い不安を抱いているのがよくわかる。
普段は、「怖い」と言っても、「外から誰かが来る」とか、「なんとなく」とかそんな感じだった。
母の漠然とした不安の根底には、こんな感情があったのかと少し驚いた。
聞いているこちらも辛いが、とにかく母を安心させないといけない。
日によって母の状態はかなり変わる。
今日が大変でも、明日もそうだとは限らない。
そう思えば、大変なこともやり過ごすことができる